法律マメ知識

私の相続事件簿第2弾(全10回) 第3回 知らない子が戸籍に(2)

弁護士 中野 直樹

 前回の続きですので、前回のコラムを読んだうえで、本話をお読みいただけると幸いです。
※名前、時期、場所等は全て実際のものとは異なります

戸籍上の子「ハナ」

 同じ母親に、誕生日が1ヶ月違いで、「花子」と「ハナ」の2人の子がいることに戸籍がなっている。客観的には2人の子はありえないのですが、大正時代の出生届け出の実務で発生した誤りです。そして「花子」さんは実在することが明らかなのですから、戸籍行政の職権で「ハナ」を抹消すれば済むはずです。

「ハナ」を消せない戸籍実務

 私たちは本籍の変更や、結婚・離婚の届けは市町村の市民課に対し行います。戸籍謄本をとるのも市町村です。これに対し、戸籍上の記載を変更する手続きは、法務局の所管となります。そこで、この件を法務局に指摘し、戸籍法に基づき、「ハナ」の記載を法律上許されないものであることとして職権訂正を求めました。法務局では本局とも検討しましたが、先例がなく、意見が分かれ、職権ではできないとの回答でした。

遺産分割調停うまくいかず

 家裁に遺産分割調停を申立て、相続人全員が「ハナ」は実在しないという点で一致しているので、無視してほしいと主張しましたが、家裁は、戸籍上「ハナ」が生存しているように記載されている以上、相続人全員でつくるべき遺産分割調書を作成できないとの見解でした。仕方なく取り下げました。

家裁に戸籍訂正を求めるが失敗

 家裁に、「戸籍訂正の許可」を求める申立をしました。裁判所との間で、訂正の方法、「花子」「ハナ」の出生届関係資料の存否調査、母の相続人調査、「花子」さんからの事情聴取等の協議・調査を行いました。家裁の調査官が「花子」さんと面談することができましたが、「花子」さんはいまだ感情よろしくなく、「ハナ」と自分との関係はわからないとの説明だったようです。「花子」さんがこのような姿勢だったこともあり、家裁とすると、「ハナ」が明らかな誤記であるとはいえないとの結論でした。

「失踪宣告」でようやく「ハナ」を場外に

 こうなれば、いったん「ハナ」を実在したものとして、7年間生死不明のときにとることのできる失踪宣告の申立をするしかないと考えました。客観的には実在しない「ハナ」であるにもかかわらず、実在したものとして扱うというのは腑に落ちない話ですが、技術的にはこの方法しかないようです。

 失踪宣告は、生死不明の方を法律上「死亡」したものとしてしまう制度であるため、慎重な手続きが必要で、申立をしてから宣告を得るまでにさらに1年以上要しました。

 当事者にとっても私にとっても、たいへん長くもどかしい道のりでした。途中で、明治生まれのSさんが亡くなられてしまいましたが、長女がこれを引継ぎ、無事到着することができました。3代にわたる関係者と人生の一部を共にしたことを感慨深く思い出します。

2014/05/12
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