法律マメ知識

相続アラカルト3(第2回)

弁護士 山下 正祐

老後の法律問題を考える №2

 最近、「老いじたく」という言葉が、よく使われるようになりました。自分のことは自分で責任をもって、人生の最後までに身の回りを整理しておこうということでしょう。

 さて、自分の財産の整理ですが、残された人生、いつどうなるかはわかりません。病気で長期療養して息を引き取るといった場合は、ある程度予測もでき準備もできますが、ある日突然命を失うといったこともなくはありません。

 そんなとき、後に残された家族は、どこに何があるのかまったく検討がつかず、右往左往することが予想されます。

 このような事態を避けるためにも、自分の財産が、どこにどれだけあって、どのように管理されているのかは、後に残った人にわかるようにしておいてあげることが大切です。

 さてそこで、今回は遺言のお勧めを。

 つい先日発表された、ある生命保険会社のアンケート結果によると、50代以上で相続対策を行っている人は、11.7%だったそうです。また、別のデーターで、公正証書遺言の数と家庭裁判所の検認の件数を参考に65歳以上の人の1000人に3人が遺言を残しているとの数字もあります。

 この数が多いのか、少ないのかは意見の分かれるところですが、遺言をされる人の数は着実に増えています。

 遺言を残すことの意義は、まず第1に、自分の財産がどこにどれだけあるかを、残った人に知らせることができることです。

 「すべての財産を○○に相続させる」とか、「不動産は○○に預貯金は○○と○○に半分ずつ」とかの遺言もありますが、遺産の内容はできるだけ特定しておいた方がわかりやすくて便利です。遺産目録という形で整理しておくとよいでしょう。もっともこの場合、遺言をした時点と遺言が効力を発生する時点(遺言者が亡くなった時点)で遺産の内容に違いが出てくることがあるので、その点は気をつける必要があります。財産の変動(土地を売ったとか、預金が減少したとか)によって遺言の内容を書き換えることも必要かもしれません。

 遺言をする第2の意義は、遺産の分け方を遺言者が指定できるということです。配偶者や子供がいる場合、誰にどのように遺産を分けるか、家族の事情によって異なると思います。世話になった人、面倒を見てくれた人に多く残したいと思うのは当然の人情でしょうが、遺言がないと原則「法定相続分」で分けられることになります。それが亡くなった人の意思に添うかどうか。また、法定相続分どおりに分けることについてさえも多い少ないといったトラブルが起きる場合もあります。法定相続分どおりの相続をさせることでいいといった場合でも、遺言でその旨書いておいたほうが、遺言者の意思がわかりトラブルの防止になるといえます。

 相続人が配偶者と兄弟だけという場合には、遺言で、遺産はすべて配偶者にと決めておくことによって、法定相続分で分けると兄弟に行くはずの遺産をすべて配偶者に残すことができます(この場合は、遺留分の請求もありません)。

 また、相続人が兄弟だけの場合、兄弟が多かったり、兄弟が亡くなっていて甥、姪がいる場合などは相続関係が複雑になる場合があるので、遺言を残しておくと、遺言者の意思に沿うことができますし、相続関係も単純化できます。

 遺言で、相続人以外の人に遺産を残すこともできます。これを遺贈といいます。世話になった人や団体に寄付したいときには、この遺贈の方法を使い寄付をすることができます。遺贈だと、寄付を受けた側に贈与税ではなく、相続税がかかりますので、支払う税金も安くなります。

 自分の遺産の相続について、自分の意思を反映させたいという人は、是非、遺言を残しておくことをお勧めします。

 最後に、遺言を書いても、書いた後でいろいろ事情が違ってくる場合があると思います。その場合、遺言の変更、取消し(遺言の撤回)が可能ですので、その都度、遺言を書き換えることができます。後に書いた遺言が優先しますので、取り消しをしなくても前の遺言の中で後の遺言と抵触する部分は無効となります。毎年、正月とか誕生日にあらたに遺言を書き直す人もいますのでご参考までに。

                                以 上

(次回は、遺言の書き方について)

2015/10/02
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