私の相続事件簿第2弾(全10回) 第10回 特別縁故者その2
「特別縁故者」となるまでのプロセス
まず被相続人の死亡地を管轄する家庭裁判所に、相続財産管理人の選任を申立てます。相続財産管理人は、気づかない遺言書が存在したり、戸籍に載っていない相続人がいるかもしれないので、官報によって、権利がある者は名乗り出るように公告します。この官報をみて名乗り出てくる者はいないと思われますが、相続権利者不存在を確定させるために必要な手続きです。この手続きに一年近くかかります。この公告期間が満了したときから3か月以内に、家庭裁判所に特別縁故者としての財産分与申立てを行います。
相続財産管理人と連携して
Aさんの「父」の遺産について、福岡の家庭裁判所は地元の司法書士を相続財産管理人に選任しました。「公告期間満了から3か月以内」は絶対要件で、一日でも遅れるとアウトですので、この司法書士とは連絡を取り合って手続き段階の情報提供を受けたり、掲載官報のコピーを送っていただいたりしました。
特別縁故者に対する相続財産の分与の申立
1年2か月後、Aさんは、ようやく家庭裁判所に申立てを行うことができました。ここからのポイントは、「特別縁故者」であることの説明と裏付けです。
Aさんの場合、かつて「父」との間で養子縁組があることは戸籍上明らかなのですが、知らないうちとはいえ離縁手続きをとられていることも戸籍上明確なので、「離縁」後の、親子としての交流の実態についてAさんの記憶を詳しく正確に引出し、それを陳述書にまとめる作業が大事でした。数十年間となると当然記憶もあいまいですし、手帳などに記録していることも稀ですので、いつ里帰りをしたかなどを特定する作業はけっこう大変でした。Aさんは、米を買って送っていたというので、そのときの宅急便の送り状の控えがないかどうか家探しをしてもらいました。また「父」の自宅から「父」の日記が出てきました。実に小さな字でびっしりと日々感じていることが書かれていました。これを拡大鏡を当てながら何か手がかりがないか読み込んだことも思い出です。これに加えて、Aさんは亡き「父」の未払いになっていた介護保険利用負担金を追納したり、「父」の遺骨を菩提寺に納骨し、永代供養料を納めたことも立証しました。
家裁の決定
一度私とAさんとで家庭裁判所に出向き、調査官から詳しく事情聴き取りをされました。このような手続きを経て、家庭裁判所が審判を出します。Aさんのケースでは、「離縁」がAさんの知らないところで出されたこと、その後も親子としての交流がなされていることをよく理解をしていただき、「父」の遺産から相続財産管理人の報酬を除いた残りのすべてをAさんに分与するという結論でした。
私は、Aさんと養父母との家族歴をたどる作業を経て、Aさんが「父」の早とちりを見事にリカバリーできたことが最後の親孝行になった、と感慨深く仕事を終えました。