私の相続事件簿第2弾(全10回) 第9回 特別縁故者その1
「特別縁故者」とは
前回の講座で、法定相続人がいない場合には、遺産は相続財産法人となり、相続財産管理人の手で、借金の支払いをした後残ったものは国に引渡されると説明しました。
国のものとなるくらいなら、故人の身近だった方に引き継いでもらいたいものです。そこで、法律は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故のあった者の請求によって、家庭裁判所の判断でこれらの者に遺産の全部又は一部を与えることができる、と定めています。
養子縁組が解消されていた!
Aさんの福岡にいた父が病気となり、看病の甲斐なく亡くなりました。Aさんは葬儀を行い、遺骨も引き取りました。父には実子がおらず、Aさんは幼女の頃に父の養子となりました。Aさんは、中学卒業後、集団就職で関西に出て、以降給料の半分を父に仕送りをしていました。Aさんは結婚をし、夫とも話し合って、福岡に戻って養親と同居を始めました。しかし、いろんな点で親との同居がうまくいかず、
数年後に、Aさん夫婦は親と別居して、東京に移り住むことになりました。
その後も、Aさん夫婦は、子どもを連れて里帰りをしたり、米を送ったりする親子関係を続けました。養母が亡くなった後も、父との交流は続きました。
ところが、父が死亡した後、戸籍謄本をとってみたところ、Aさん夫婦が上京した直後の時期に養子関係が解消されていたのです。Aさんは養父母から何も言われていません。ずっと親子としての関係と交流を続けてきており、父が倒れて入院をしたときにも、見舞いにいったAさん夫婦に、父として、娘として、娘の夫としての会話をしていました。
養父母がAさんに無断で離縁届けを出してしまっていたのですが、Aさんは狐につままれたような思いでした。おそらく、養父母は、同居をしていた娘夫婦が同居を解消して上京してしまったことに腹を立て、勝手に手続きをとったものでしょう。
父の遺産のゆくへ
父はつつましい生活をしていたようで、1000万円を超える預貯金を残していました。実質的な親子関係であったAさんが引き継ぐべきものです。ところが、Aさんは、戸籍上は、父とは赤の他人関係となってしまっているために、法定相続人にはなれず、父の預貯金を払い戻す手続きがとれません。父には他に相続人がいないため、このままでは国のものとなってしまいます。
この時点で、私はAさんから相談を受けました。離縁届けを無断で出されたのですから、この離縁を無効にして養子関係を回復するのが筋です。この場合父が死亡していますので、公益代表である検察官を被告にして裁判を起こすことになります。
でも離縁届けが出されてから既に40年経過し、無効を立証することは著しく困難です。
私は何か方法がないかと考え、思いついたのが特別縁故者制度でした。
次回に続きます。