法律マメ知識

私の相続事件簿第2弾(全10回) 第6回 この人には相続させない(その1)

弁護士 中野 直樹

遺言書の限界

 自分が将来死亡したときに、法律によって相続人となるべき者を「推定相続人」といいます。推定相続人のうち、 特定の者にだけ相続させたい場合には、生前贈与をしたり、遺言書を書いておくことになります。この方法により、財産を与える者以外の推定相続人への遺産の継承を防ぐことができますが、配偶者や子には、「遺留分」という権利が保障され、遺言書によってもこの遺留分を奪うことができません。

ある社長からの相談

 Aさんは父から受け継いだ事業を発展させ、弟・妹を役員にした同族会社の社長です。Aさんは妻との間に2人の子をなしましたが、この妻が病死しました。その後に、Aさんは別の女性と出逢い、結婚をすることになりました。この女性も再婚で、連れ子(中学生の娘)がいます。

 Aさんの悩みは、この女性と入籍をすることで、将来自分が死亡したときに、自分の会社の株も含めた財産が妻に相続され、妻が死亡したときに妻の連れ子に相続されることになり、そうなると、自分の一族と血のつながりのないこの子との間で会社の経営もからんだ紛争が生じることを避けたい、というところにありました。一族の和を維持するために、妻側の親族(「姻族」といいます。)に自分の遺産がいっさい流れないようにする形がとれないか、が相談のポイントでした。

遺留分の放棄

 相続は生活の柱であった方が亡くなった後の遺族の生活保障的側面もあることから、あらかじめ相続させないようにするということには慎重になるべきです。法律も、相続が開始する前の「相続の放棄」を認めていません。Aさんの場合、話を聞くと、妻には一定の財産を渡すが、仮に妻が先に亡くなったときに、代襲相続人となる妻の子に財産が流れないようにする手だてをとりたいということでした。

 私は次のような方法があると説明をしました。

 まずAさんがAさんの一族に遺産を相続させる遺言書を書きます。

 次に、Aさんの結婚した妻が、Aさんの一族のどなたかに相続させる遺言書を書きます。

 そして、Aさんの妻が、その子の法定代理人として、家庭裁判所に、子が母の相続に関する遺留分の放棄をすることを申立て、裁判所の許可を受けます。

 このように法律は家裁の許可を受けることを条件に、予め遺留分の放棄をする制度を認めています。

 私は、代理人としてこの家裁の手続きに関与しましたが、Aさんの子が未成年者であっただけに、裁判官はかなり慎重になり、このようなことをしなければならない具体的な事情等について丁寧な説明をすることを求められました。

 一族、再婚、子の福祉等いろいろ考えさせられるケースでした。

2014/11/07
  • 法律相談のご予約