私の相続事件簿(全10回) 第10回 遺産の範囲―借金などの債務
死の悲しみどころでない借金
幸せの尺度は人にとってまちまちでしょう。しかし、人として、与えられた人生を精一杯、自然死するまで元気に生き抜きたいというのは共通した思いではないでしょうか。それとできれば家族に借金を残すことなく息を引き取りたい。
亡くなられた方が自ら借りたものであろうと、他人の保証人となったものであろうと、債務は、法定相続人に当然相続されます。手に負えない借金があると、死後もあれこれ愚痴を言われ続けてしまうのが相続の世界です。
突然税務署から通知書が
こんな相談がありました。2年ほど前に長野のおじさんが亡くなりました。日頃交流をしていませんでしたが、亡き父の弟にあたりますので、お葬式には参列してきました。最近になって、長野の税務署から通知がきました。そこには、このおじさんが本税700万円に延滞税がついて1000万円ほどの国税を滞納していること、このおじさんには妻や子どもがおらず、法律によると弟の子である自分が相続人であるので、この滞納税を相続することになるが、どうしますかと書いてある。まったく知らなかったことなので、びっくりしました。とても払えない金額なのでどうしたらよろしいでしょうか。
滞納している税金も相続の対象となります。それにしても税務署が、時間と手間をかけても徹底して相続人探しをすることに驚きました。
3ヶ月以内に相続放棄
みるべき相続財産がなく、借金の方が多い場合には、相続人は、「相続の開始を知ったときから3ヶ月以内」に、家庭裁判所に相続放棄の申述書を出すことによって、債務の相続から解放されます。債務だけ免れて、プラス財産を手にするという虫のいいことはできません。それ以前にたとえば遺産の預貯金の払い戻しをうけていたりすると、この相続放棄ができなくなることもありうるので注意です。
いつから3ヶ月?
先の相談の場合、相談者も参列したお葬式から2年も経過しています。民法には死亡を知ったときから3ヶ月と書いてありますので、間に合わないのか。この点、裁判例は、死亡に加えて、「借金があることを知ってから3ヶ月以内」との解釈をとっていますので、税務署からの通知が届いてから3ヶ月以内で大丈夫なのです。
私はそのことを説明して、相談者から相続放棄の手続きの依頼を受け、相続関係を確定するための戸籍・除籍謄本集めを開始しました。
仮に、亡くなられた方に債務もあるが、プラスの財産もあり、すぐには相続をしても大丈夫か、放棄した方がよいのか判断がつかない場合には、やはり3ヶ月以内に、家庭裁判所に、3ヶ月の熟慮期間の延長の許可を求めることもできます。