法律マメ知識

私の相続事件簿(全10回) 第8回 遺産の範囲―損害賠償

弁護士 中野 直樹

加害行為による死

 交通事故による死、企業の安全配慮義務違反による事故死・過労死・過労自死、医療事故による死、・・ 弁護士の相談にとって、第三者の加害行為によって家族の一人が亡くなったことに関する相談は重たいものです。遺族の方の悲しみに接し、ついつい自分の家族のことも考えてしまいます。
 遺族の気持ちは、当然加害者側への怒りの爆発となります。失われたものは命というかけがえのないものです。しかし、法的対処となると、還らぬ命をお金に換算するしかないところであり、しかもその換算が定型化しているところが多いため、心の整理がたいへんなことが少なくありません。

損害賠償請求権も遺産

 判例は、死亡に伴う損害賠償請求権は慰謝料請求権を含め、相続財産として、法定相続人に相続されるとしています。もっともこれとは別に近親者の固有の慰謝料請求権も認められますが、これは今回のテーマの外です。
さらに判例の考え方では、損害賠償請求権は金銭債権の1つとして、法定相続人に法定相続分で当然分割して相続させることになります(原則)。

遺産分割協議書での取り決め可能

 法定相続人間で、特定の相続人が損害賠償請求権を全部相続することを合意したり、法定相続分とは異なる割合で分ける合意をすることは認められています。この場合には、法定相続人全員の署名捺印した遺産分割協議書の作成が必要です。

相続人間で話がつかないとき

 たとえば、離婚した後に、母が親権者となって育ててきた子が第三者加害により死亡したときに、加害者に対する損害賠償の裁判を提起しようとするときには、前夫(父)も2分の1の法定相続分を持ちます。離婚後、前夫が養育費の支払いもせず、長年月にわたりまったく交流のない場合でも、法律上は2分の1の権利があるのです。
したがって、母親のみが原告となって裁判をする場合には、最初から損害賠償金の半額しか加害者に請求できないことになります。これは加害者に対する責任追及としては、最初から半分を免除するようなことであり、釈然としません。
 このようなケースでは、前夫と連絡のつく関係があるときには話し合いをもち、権利の全部を母が取得する遺産分割協議書を作成することを追求すべきですし、仮に裁判提訴にあたり分配までの合意ができなくとも、将来賠償金を受領できたときの解決のルールを文書で取り決めて、父母両方が原告となって裁判を起こすこともあります。
 加害者への請求と相続人内部問題の2つを解くことができたときの安堵感はひとしおです。

2014/01/14
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