私の相続事件簿(全10回) 第5回 内縁夫婦の相続のゆくへ
内縁の夫(妻)に相続権はない
夫婦として生活をしているが、婚姻届けを出していない状態で配偶者が死亡したとき、内縁の相手方には相続権がないというのが最高裁判例です。一緒に生活をしてくるなかで形成した財産をすべて一方配偶者の名義にしておいたときには悲劇がおきます。夫婦別姓を目的にあえて婚姻届けを出していないときも同じですので、互いに遺言書を書いておく必要があります。
内縁の夫(妻)にもある権利
相続に基づく権利でなければ話は別です。
交通事故などで死去した場合の慰謝料については内縁の配偶者にも独自に請求権があります。また年金受給権者は、実質で判断されますので、被扶養の関係が証明されれば、内縁の配偶者が遺族年金を受けることになります。遺骨やお墓の承継も特別な取扱となります。
子のいない内縁の夫が労災で死亡
夫は在日韓国人の方で、内縁関係という事例でした。子はいませんでした。夫が建設現場で倒れたクレーン車の下敷きになり死亡しました。私は、残された内縁の妻から相談を受けました。夫の経営する会社は約6000万円の大きな負債をかかえていました。
外国人については、法の適用に関する通則法が定められており、相続については、亡くなった方の本国法によるとされています。相談案件の場合、韓国の民法でも、法定相続人は日本と同じく、妻子がいない場合には親とされています。死亡した夫の父は既に死亡していましたが、母が神戸で健在でした。
幸い内縁の妻はこの母の協力が得られることとなり、私は母から依頼を受けて加害企業と交渉することになりました。
韓国の戸籍と外国人登録済証明
相続人を確定する作業としての手がかりは、亡くなった夫とその母の外国人登録証明書、それと、両親は昭和15年頃に、韓国のある郡から来日して山口県内に住んでいたとの情報でした。
大韓民国から戸籍を取り寄せる手続きを重ねました。韓国も日本と同じような戸籍制度があり、日本語で書いた戸籍謄本交付申請書を「・・郡面長 御中」で郵送すると、探して送付していただける。しかし、故夫は両親が来日してから生まれたようであり、大韓民国から送ってもらった戸籍には掲載されていませんでした。
次の探索ルートは、外国人登録証明に記録が残っていないかでした。山口県内といってもどこの市町村かわからない。そこで、昭和29年に死亡したといわれる父の遺骨が最初埋葬されていた菩提寺の住職に連絡をとったところ、当時住んでいた町が特定できました。この町役場から、登録済み証明書を得ることができ、ここに、両親が夫婦であること、父が死亡したこと、夫が長男であることが記載されていました。
薄幸
相続人確定後、加害企業から損害賠償を得て、会社の債権者に対し約7割の配当率で配りました。内縁の妻の後始末をきちんとつけようとする姿勢は立派でした。
私が弁護士になって4年目のときに出会った思い出深い事件です。
その後も折に触れ、この方とは交流をしていましたが、数年後、ガンで50歳と少しの命を閉じられました。