法律マメ知識

私の相続事件簿(全10回) 第2回「家系図」をつくる

弁護士 中野 直樹

相続案件の着手時の分岐

 相続問題の相談を受けたときには、まず、遺言書があるのか、ないのかを確かめます。遺言書があるときには遺言書から出発することとなります。
 ここでは遺言書がない場合を前提とします。弁護士が受任をしますと、法定相続人の確定作業と遺産に属する財産の特定をする作業に着手するところから始まります。この作業はおおむね1ヶ月ほどかかります。

戸籍制度

 権利のある相続人が誰となるかについては、法律がすべて定めています。これを法定相続人と呼びます。この特定作業は、戸籍謄本等を集めていくことによって行います。
 明治政府になってから権力による人民の把握と支配のための基礎的な道具として、戸籍制度がつくられました。日本国籍の人はすべて戸籍がつくられます。逆にいえば日本国籍のない方は戸籍がありません。在日外国人の相続人の確定作業は別の方法によらなければなりません。

「戸籍」と「除籍」

 「戸籍謄本」とは現に生きている方の現在の戸籍の写しです。「除籍謄本」とは出生してから現在までにつながる過去の戸籍の写し、あるいは死亡した人の戸籍の写しを指します。さらにややこしいのが、法務省が戸籍法の改正で書式を変更したときには「改製原戸籍」と呼ばれるものも登場します。
 戸籍は本籍地と筆頭者ごとに作製されます。本籍地はどこに定めてもかまいませんが、戸籍謄本等は必ずそれぞれの本籍地のある役所でとらなければなりません。

戸籍謄本にだまされないで

 本籍を動かしますと、現在の戸籍謄本には、前の本籍時代までの身分関係の変動がのりません。たとえば、結婚をして、離婚をしていたとしても、離婚後に本籍を動かしますと、現在の戸籍謄本にはその事実が載っていないのです。ときたま、戸籍謄本で初婚だと信じ込んだが、実は再婚で、だまされたとの相談を受けることがあります。子どもを出生した事実も本籍地移動ごとに消えてしまいます。

一族をたどる作業

 そこで、本題にもどると、亡くなった方の法定相続人を特定するためには、亡くなった方の戸籍謄本を出発にして、その方が動かした本籍を逆にたどりながら、除籍謄本を取り寄せていくことなります。本籍地を動かしている回数分だけ、除籍謄本をその本籍地の役所でとることになります。遠隔地の場合には郵便にて取り寄せ、手にした除籍謄本を見てその直近のつながりの除籍謄本の所在地をつかんで、また郵便を出すという作業の繰り返しとなります。男女とも子どもをつくることができる年齢が12歳くらいだと考えて、その年齢のときに作製された除籍謄本までたどり着く必要があります。この作業の過程で親族の形成の歴史に遭遇します。

職人的な作業

 途中の連続性が1つでも欠けているとアウトですので、相続人の数が多かったり、複数の相続が重なっていると、この作業は特殊な能力を要するものとなります。そして集めた戸籍謄本等をもとに「相続人関係図」をつくり、当事者の確定となります。
 慣れないと時間ばかりかかってしまいます。また個人情報の障碍もあります。弁護士に頼まれた方が効率的です。

2013/10/08
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