所員雑感 Vol.15 よみがえった57年前の記憶
毎年、事務所の新年号ニュースには、お題が出され、所員がそのお題にしたがって雑文を書くのが、わが事務所の慣わしである。今年のお題は、「私のヒーロー、ヒロイン」であった。何を書こうかと一応は考えたが、あまり深く考えもせず、元巨人軍の「打撃の神様」といわれた川上哲治のことが頭に浮かんだ。(川上さんは、昨年秋、93歳で逝去された)小さい頃、大の巨人ファンで、川上はまさに私のヒーローであった。
当時、まだ、ラジオで野球の実況放送を聞く時代で、名解説者小西得郎の「打ちも打ったり、捕るも捕ったり」などの名文句も懐かしい。
書くことはいろいろあったが、とくに小学4年生の頃、家の隣りに下宿をしていた小学校のT先生に、巨人戦を見に連れて行ってもらったことが想い出として残っていた。八王子だか昭島の野球場だったこと、川上と青田がホームランを打ったこと、川上が6打数4安打の大当たりをしたことなどがおぼろげな記憶として残っていた。どことの試合だったか、どちらが勝ったかは記憶になかった。(青田が出ているのだから大洋(現ベイスターズ)戦と分かりそうなものだが、青田は当時巨人に所属していたのかなと思っていた)
雑文であっても、書くに当たっては、多少は正確性を期さなければならない。八王子の球場だったか昭島の球場だったか、気になり、インターネットで調べてみた。「昭島球場」「八王子市民球場」など検索してみて、現在、野球場があることはわかったが、昔の巨人戦の記事など出て来るはずがない。いろいろ探しているうちに、「巨人 公式試合日程」なるサイトに行き当たった。1936年以降の巨人戦の試合が、いつどこで行われたかが全て掲載されているサイトだ。やった!と胸をときめかせながら、小学4年生だった頃、すなわち1956年頃の試合をおそるおそる探してみると、な、な、なんと!1956年7月25日に八王子市民球場で試合があったではないか!1956年だから、ちょうど小学4年生の時期に一致する。私が見たのはこの試合だ!この感動たるや、他人には分からないかもしれない。自分のおぼろげな記憶が、記録としてはっきりと書き留められていたのだ。
1956年7月25日の試合だったと、日時まで特定できたということは、当時の新聞には、試合結果の記事が出ているはずだ。そう考えると、そこまで解明したくなるのも弁護士という職業柄かもしれない。
時間の合間を見て、立川の市立中央図書館に行き、当時の読売新聞(巨人戦なのでやはり読売新聞が一番)の縮刷版があるかどうかを尋ねてみた。前にも経験したことだが、図書館の司書の方は、非常に親切で、縮刷版はないが、マイクロフィルムがあるはずと言って、一緒に再生機を操作し、探してくれた。(このように司書の方の力を借りることが、司書の地位向上につながるとか。大いにご活用ください。)
そして、ついに見つけたのである。1956年7月26日付読売新聞のスポーツ欄に、前日、八王子市民球場で行われた巨人大洋戦の試合結果の記事が載っているのを。「延長12回 巨人、大洋に敗る」の活字。対戦相手は大洋で、巨人は負けたのだ。試合内容を見ると、9回裏に川上が2点本塁打を打って同点延長になり、12回、大洋の決勝打で試合終了。大洋の青田もホームランを打ち、川上が6打数4安打だったことも確認できた。負けたけれどもいい試合だった想い出が、記憶の底から浮かび上がってきた。まさに57年前の記憶が、鮮明に目の前に現れたのである。
同級生数人で飲んだときに、この新聞記事のコピーを見せたところ、ひとしきり当時の野球談義に花が咲いたことは言うまでもない。お互いそんな年になったのかもしれない。
事務所の新年号にまつわるきわめて個人的に感動した話である。