お知らせ

鶴川高校事件についてのご報告

2016/05/16

[事件の概要]

 鶴川高校の学園理事長は、これまで労働委員会命令や裁判所の判決で不当労働行為であると断罪されてきたにもかかわらず、不当労働行為はおさまらず、手段方法を変えては組合に対する攻撃を行っている。2011年11月に鶴川高校教組組合員であるN教員が授業時間中に教室外にいた生徒約10名に対し教室に入り授業を受けるよう指導したところ、生徒から暴力をふるわれた。学園は事実を歪曲して、Nを生徒とトラブルを起こしたとしてクラス担任から外した。そのうえ、保護者と生徒に対し、学園が関係生徒を誘導して得た生徒の言い分を引用してNを担任から外した理由を記載した文書を配布した。配布した文書には生徒とトラブルを起こした不適切な教員であるので担任を解任すると記載されていた。

 鶴川高校教組は、Nのクラス担任解任処分の取り消し、教師としての名誉を棄損する文書を保護者などに配布したことについての謝罪を求め、2012年1月に東京都労働委員会に不当労働行為救済命令の申立を行った。都労委は2013年11月、組合の申立を認める救済命令を発した。同年12月、学園は中央労働委員会に再審査申立をしたが、2014年12月に再審査申立を棄却するとの中労委命令が発せられた。

[学園の救済命令取消請求訴訟と中労委の緊急命令申立]

 学園は、2015年1月、東京地方裁判所に中労委を被告として不当労働行為救済命令取消請求の行政訴訟を提訴した(東京地裁民事第11部に係属)。組合は2015年10月に中労委あて緊急命令申立を求める上申書を提出した。2015年12月、中労委は、遅くとも2016年4月1日までに鶴川高校教組組合員Nをクラス担任教員に就任させなければならない旨の緊急命令の申立をした。2016年1月には学園が申請をした証人について尋問が行われた。同年3月に原被告、組合が最終準備書面を提出し結審し、6月29日が判決期日として指定された。組合は、学園申請の証人尋問にもとづいてもクラス担任外しには根拠がないことを明らかにし、クラス担任から外された後に当該クラスの生徒が書いた、N先生は正しくクラス担任外しは間違っているとの作文をコンピュターソフトで字体を変形して証拠として提出した。2016年3月に結審し、判決期日は来る6月29日と指定された。

[緊急命令とN教員の担任復帰]

 2016年3月31日、東京地裁民事11部(裁判長佐々木宗啓裁判官、湯川克彦裁判官、杉山文洋裁判官)は中労委の申立を認め、鶴川高校教組組合員Nをクラス担任教員に就任させなければならない旨の緊急命令をくだした。本件決定では、クラス担任外しにより「Nは……重要な業務を遂行する機会を逸することになるし、また、Nが教員としての適格性を欠くとの誤解を生徒、保護者に充て続けることになり、……職務上、精神上の不利益が増大することになる」とし、本件命令が履行されずNクラス担任に就任させない状況が継続すると「組合員であることや正当な組合活動を理由として一度課された職務上、精神上の不利益は容易に回復できないとの印象を与え、前記の本件組合の組織や活動に及ぼす効果を増大させて、回復困難な状態に陥らせ、労組法の趣旨、目的に反する結果となることから、緊急命令の必要性があるというべきである」とした。

 学園は、2016年4月4日、Nを2016年度1学年のクラス担任に任命し、Nは4年半ぶりにクラス担任に復帰した。労働組合法32条は、使用者が緊急命令に違反したときは50万円、当該命令が作為を命ずるものであるときは、その命令から起算して不履行の日数が5日を超える場合はその超える日数1日につき10万円の割合で算定した金額を加えた金額以下の過料に処せられると定めている。学園は多額の過料が課されることをおそれて、担任に復帰させたものと思われる。

 かつては労働委員会で勝ち使用者が不当労働行為救済命令に対して取消請求訴訟が起こした場合、必ず裁判所に緊急命令の申立をしていたが、最近は消極的になっている。労働委員会命令を実効性のあるものにするために緊急命令制度がもうけられている以上、これをおおいに利用すべきである。鶴川高校事件では原則的な対応を行い、成果をおさめたので、報告する。なお、担当弁護士は、私、中野直樹(以上、まちだ・さがみ総合法律事務所)、江森民夫弁護士(東京中央法律事務所)等である。

弁護士 志田なや子

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