時効は過ぎてても
法律には「時効」という概念があります。今回は、多くの人が思い浮かべるであろう、刑事事件の時効が過ぎていた事件の解決事例について報告します。民事事件とのからみで刑事事件の時効が問題になりました。
私の依頼者Yさんは、Xさんから9年前に借りたお金を支払えとの訴訟を起こされました。利息が膨れあがり請求は400万円もの多額。通常であれば、いくらか減額してもらっての和解を目指すという事案です。しかし、本件には8年前にXさんが自己破産しているという特殊事情がありました。
破産するときには、基本的に自分の財産を処分しなければなりません。Yさんに貸したお金ももちろんXさんの財産に含まれます。つまり、XさんはYさんにお金を貸したことを隠して破産、借金を0にし、その後にYさんに訴訟を起こしたのです。このように財産を隠して破産することは「詐欺破産罪」に当たります。詐欺破産罪で有罪になればXさんの破産はやっぱり認めませんと裁判所が判断することもあります。この点を突いていきたかったのですが、時効の問題が立ちはだかりました。詐欺破産罪の時効は最大7年、すでに時効が成立していたのです。時効が成立しているということは、今後Xさんが詐欺破産罪で有罪になることはないということです。でも、だからといって財産隠しをしたXさんの請求が認められるのはやはりおかしな気がします。
過去の裁判例を当たったところ、似たような事案を見つけました。その裁判例の理屈を本件にあてはめると次のようになります。
「破産手続のときに貸したお金があることがわかっていれば、破産手続きの際Xに代わってXの財産の取りまとめを行う破産管財人がYへの貸金返還を請求していたはずだが、Xの財産隠しがあったせいで破産管財人は請求できなかった。そうであればYに対して貸金返還請求をするとしたら破産手続きが終了した今でも破産管財人がするべきであり、XはYに請求する立場にはない。」
この裁判例を挙げて交渉し、結局当初の請求額の数分の一の金額で和解することができました。時効が成立していても、「でもおかしい!」との素朴な直感を信じてよかったと思える解決になりました。