行政事件

国や地方自治体による違法又は不当な行政活動により市民の権利が侵害されたときに、この市民の権利救済をするための裁判手続きはどのようになっていますか?

国や自治体との間での取引や土地の境界をめぐる争いなどの場合には、市民間でおこる紛争と同じ民事裁判手続となります。

しかし、行政活動は、公益を追求するものであること、強い強制力をもつ活動が多くあるという特殊性から、特別な法律による救済制度が作られています。そこから主だったものを紹介します。いずれも、通常の民事裁判とは異なる特別な要件が定められています。

これらの手続きでは、裁判所が、行政庁や自治体の裁量権を広く認める傾向、言い換えると、行政の判断を尊重して違法判断をしない傾向が強い実態にあります。そのため、裁判を行うには弁護団をつくって、十分な検討をして準備し、進める必要のある場合も多くあります。

情報の管理に関するもの

行政情報公開

国の場合には、行政機関の保有する情報の公開に関する法律がつくられています。誰でも、行政庁に対し、その行政機関が保有する行政文書の開示を求めることができます。行政庁には開示義務がありますが、さまざまな要件で開示の範囲が限定されており、非開示・部分開示になることが少なくありません。この場合には、非開示・部分開示処分に対し、不服申立や取消訴訟ができます。

自治体情報の場合は自治体ごとにそれぞれの情報公開条例が定められており、これに基づいて情報開示請求をすることになります。開示決定(非開示決定)に対して、不服申立、取消訴訟が出来ることは、国に対する場合と同じです。

個人情報開示

国の場合は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律がつくられています。この法律は行政機関が保有する個人情報を保護することを目的とするものですが、誰でも、行政庁に対し、その行政機関が保有する自己の個人情報の開示や訂正・利用停止を求めることができます。不当な制限をされたときには不服申立や取消訴訟ができます。

自治体についても、個人情報保護条例などが定められており、それに基づいて個人情報の開示等を請求できます。また開示決定(非開示決定)に対し、不服申立、取消訴訟が出来ることは、国に対する場合と同じです。

地方自治体に対する監査請求・住民訴訟

地方自治体の特別な制度として、住民は、自治体の長や職員が、違法又は不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約締結など(財務会計行為と言います)を行ったときには、自治体の監査委員に対し監査請求をすることができます。監査請求が認められなかったときには、地方裁判所に住民訴訟を起こすことができます(地方自治法242条)。

行政訴訟

行政事件訴訟法という法律によって認められた裁判です。国や自治体の公権力の行使によって不利益な処分を受けた市民がその是正と権利救済を求めて行うのが、取消訴訟と言われているものです。たとえば、国税庁から違法な課税処分を受けて争う場合、都市計画決定を争う場合、生活保護費を削減する処分を受けて争う場合などです。

裁判では、まず、原告になることができるかという「当事者適格」の問題、裁判をするに値する利益(立場)があるのかという「訴えの利益」の問題、取消訴訟の対象となるかという「行政処分性」の問題など入り口要件を満たしているかどうかの検討をします。そこが通過できれば、問題とされている行政行為が、憲法・法律・条例などの法令に違反をしているのかが審理の対象となります。行政庁の裁量権行使の当・不当の問題は審理の対象とはなりませんが、裁量権の範囲を逸脱した場合には、裁判所が審理し、行政処分を取り消す場合があります。

国家賠償

憲法17条に基づく国家賠償法という法律によって、国や地方自治体の公務員の不法行為により損害を受けた国民が、国や自治体を相手に損害賠償請求をできます。

国家賠償には2つの類型があります。1つは、公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に国民に損害を与えた場合です。国賠法一条一項責任といいます。もう1つは、道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために国民に損害が生じた場合です。国賠法二条責任といいます。

現在、当事務所の弁護士も弁護団に参加している薬害C型肝炎裁判、司法修習生の給費制廃止違憲訴訟首都圏建設労働者アスベスト損害賠償裁判、「生業を返せ、地域を返せ」福島第一原発事故原状回復裁判等も国賠法一条一項責任を問うものです。

損失補償

国家賠償は違法な公権力行使の責任を問うものですが、適法な公権力の行使によって財産権が侵害され、損失を生じた者に対し、公平の見地から税金の負担で金銭補償するものです。公共事業や都市計画のため土地・建物を収用するときに、価格補償をする場合が典型です。

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